once 53 本当のキス***53***私の勇気は、何のためだったんだろう。 朝子はこの数日、ずっとその自問の答えを探していた。 ひょっとしたら、有芯に一度も抱かれていなかったことが、心残りだったのかもしれない。 もしそうなら・・・この人と抱き合うことで、この気持ちにけりがつくなら・・・。 でも今はそんなことどうでもいい。ただ、この気持ちを有芯にぶつけたい。 たった一度だけでもいいから、愛し合いたい・・・。 有芯は朝子の心ごと抱き締めたくて、気付くと腕に強い力を入れていた。それでも、朝子は泣きながら必死で有芯にしがみついていた。 やがて二人は見詰め合い、朝子が口を開いた。 「有芯、本当のキスしよう?」 「本当のキス?」 「一方的じゃないキス」 朝子の手が、有芯の頬に触れた。ああそうか・・・有芯は思い、朝子の目を見つめ、ゆっくりと顔を近づけると、目を閉じ唇を重ねた。朝子の指が有芯の髪をかき上げ、彼のうなじを優しくなぞった。 「愛して、有芯・・・」 囁くような朝子の声は、先ほどまでとは違っていた。“先輩”としてではなく、“女”として男である有芯を求める甘い声。 「朝子・・・」愛する女に求められる幸せにくらくらしながら、有芯はヴィンテージデニムとトランクスを脱ぎ捨て、彼女の体に触れた。しかしとたんに驚いて、朝子の顔を見つめた。 「朝子、怖い?」 「怖くない。どうして?」 「だって・・・震えてる」 朝子は少し笑うと、戸惑いがちに、有芯の腰に回していた手を彼の頬に当てた。 「有芯、あなたもよ?」 「え・・・」彼は自分の両手を見つめた。 「本当だ、震えてる・・・何でだろう、嬉しいのに・・・」 「私も・・・変だね」 二人の戸惑う瞳がぶつかり、苦笑に変わった。本当は二人とも分かっていた。二人は、抱き合ってこれ以上、互いを愛してしまうことが怖かったのだ。 有芯はその目に欲情を宿らせながら、朝子を見つめた。「・・・いい?」 朝子は有芯の欲情をすべて受け入れ、彼を見つめ返した。「・・・うん」 二人の震えはもう消えていた。有芯はゆっくりと朝子の中に入っていった。 54へ ジャンル別一覧
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